禁煙16日目。煙草会社のご意見2。
禁煙14日目に、世界最大の煙草会社「フィリップモリス」が煙草の危険性についてどんなステイトメントを出しているかについて触れた。
じゃあ今日は、我らがJTはいったいどんなことを言ってるのかきいてみよう。
とくに、僕らがいちばん苦しんでいる、煙草をやめたくてもやめられない理由である「依存性」について、彼らはどのように認識してるんだろうか?
さっそくJTのホームページを見てみよう。
僕はこのwebサイトにはじめて訪れたとき、愕然とした。
なんの情報がどこにあるか、まったくわからない。
あまりに迷子になってしまって、しまいには森の中で呆然と立ち尽くしているような、途方に暮れた気分になった。
これはサイトデザインの問題というか、どのような姿勢でwebサイトを作るかという会社の哲学の問題だ。
僕はこういう企業webサイトが大嫌いだ。
顧客や閲覧者が欲しい情報に関心がなく「自分が教えたい情報にしか興味がない」サイト。独りよがりで、自己愛に満ちて、きれいな言葉をならべている割にはすべてが表層的で奥行きがない。
結局、僕はJTが公開する「煙草の危険性に関する情報」に行き着くまでに5分以上かかった。そんなのってアリ? あるサイトで求める情報にたどり着くまでに5分以上迷子になるなんて、いままでにそう経験したことがない。たいていのユーザーは10秒でサイトを離れるって言う研究もあるくらいで、良識がある企業はすこしでも情報にアクセスしやすいサイト作りに腐心してる。
その点、フィリップモリスはJTよりも遙かに優れていると思う。
「トップページ」→「喫煙と健康」
と該当ページまで1クリックで飛べる。どこにそのリンクがあるか探すのにもそれほどの苦労はなかった。
で、話を戻すと、我らがJTのwebサイトでは
「トップページ」
→「企業情報」
→「たばこ事業」
→「たばこ事業を行うにあたっての基本姿勢」
→「喫煙と健康に関するJTの考え方」
→「依存性」
と5クリックも必要だ。
5クリック!
じゃあ5クリックが必要で、しかも辿り方も知った上で、もういちど自分でそのページまでたどり着けるか、JTのサイトを見て欲しい。
さきに言うけど、たぶん無理だと思う。
それくらいこの情報はわかりにくいところに格納されてる。厳重にいくつもの箱の中にしまわれて、人目から隠されているかのように。
それでようやくたどり着いたページがこれだ。
内容は自分でよく読んで欲しいけど、とにかくひどいシロモノだ。
ちゃんと煙草の危険性を訴える国際機関の言葉を引用して、リンクを貼っているフィリップモリスとはドエライ違いだ。客観性の精度が比較にならないのはもちろん、JTが書いている内容は僕たちのような禁煙挑戦者の実感とはほど遠い、少なくとも僕の体感する苦しさにはとうてい及ばない控えめななものだ。
冒頭だけでもつっこもう。以下の序文を見てみると(注目点は僕が太字化)
たばこには、弱いものでありますが、依存性があります。実際に、禁煙するのは難しいとおっしゃる喫煙者が多数いらっしゃいます。依存は、酒(アルコール)・たばこ(ニコチン)・コーヒー(カフェイン)といった嗜好品によるものから、麻薬・覚せい剤といった違法薬物によるものまで、幅広くみられる精神的・身体的状態です。科学的にみた場合、依存の特性としては以下のようなものがありますが、たばこ(ニコチン)の依存性は他の物質に比べて弱いものであることが知られています。依存性
この文章、なんだか気持ち悪くない?
そう感じるのは当然だ。理由は2つある。まずは
① たばこの依存性は弱いものじゃない。(でも短い序文中に「弱い」と2回も繰り返されてる)
てこと。これは太字の部分。
ニコチンの依存性が弱いわけないじゃないか。僕もずいぶんお世話になった「みんなの禁煙掲示板」を見てみるといい。みんな悶絶してるじゃんか。三日間、緑茶を飲まないと決めたって、ここまで苦しむことはない。三日間、手放しただけでこんな地獄みたいな禁断症状を味わうことになる合法の嗜好品が他にあるのか?
あるのならぜひ教えて欲しい。
ニコチンの依存性が弱いわけないよね?
そしてJTの文章が気持ち悪い理由、二つ目。
② 行間で無理矢理「依存性は弱い」と読ませてくる。
もういちど読み返して欲しい。ポイントは頭の2文だ。
「たばこには弱いが依存性がある」
「実際に禁煙が難しいと言う人間がいる」
この2文をつづけてならべたとき、次にくる文章としていちばん自然なものは「しかし」ではじまる文書だ。これは僕ら日本人が日本語を読むときの自然な言語感覚だ。
でも実際には「しかし」とは置かれていない。その代わり、僕らは無意識のうちに文章をこのように脳内で補完することになる。
「たしかに、たばこには弱い依存性がありますが」
「なかには、実際に禁煙が難しいと言う人がいますが」
これが印象操作だ。
冒頭の2文でパラグラフの全体の印象は決められてる。そして実際に「しかし」を入れて読み直してみるといい。それでも意味はまっすぐに通じるでしょう??
こういう「むりやり行間を読ませる」レトリックは、書き手としてはそこそこ高度な技術だ。きっと広告代理店でこのようなプロパガンダに慣れたライターが文章を作ったんだと思う。でも技術は一流じゃない。だって読んでて気持ち悪いんだから。あくまで無理矢理、行間を読ませようとする作為的な文章だ。
押しつけがましい文章。だから僕らは読んでいて気持ち悪い。
JTはニコチンの危険性を訴える気などさらさらない。
それがこのパラグラフだけでも充分にわかる。
一方、同じ煙草会社である外資系のフィリップモリスのサイトによれば、
また喫煙には依存性があり、やめることは極めて困難な場合があります。 これが、世界中の主要な医療機関および科学機関の見解です。 また、これらはフィリップ モリス インターナショナル(PMI)の見解でもあります。
この二社が売ってるのは、同じ商材だ。(信じられる?)
そんでもって、僕らはその商材に中毒になってる。
それもやめるのに悶絶するような禁断症状を味わう、深い中毒だ。「やめることが極めて困難」なのを僕らは体感している。どちらの会社のほうが真摯に僕らの気持ちに寄り添ってるのかは、この文章を見るだけでも明らかだ。そうじゃない? しかもフィリップモリスはこのような内容の警告を、トップページから1クリックの場所に置いてある。
でもJTは「依存性は弱い」と繰り返してあるだけの文章を、トップページから奥深く、五重の箱の内側に隠してある。
この文章と、その扱いを知ったときに、僕はJTが嫌いになった。
セコイ。セコすぎる。
フィリップモリスの正々堂々とした態度はむしろ清々しいほどだ。
JTって、セコいんだよ。だから嫌いなんだ。
このJTの依存性説明ページはこうつづく。(下線・太字化は僕が加えた)
ある物質を摂取したいという欲求を強く抱いている状態。
精神依存
たばこ(ニコチン)の精神依存性は、他の物質例えばコカインやアルコールに比べると弱いことが知られています。身体が物質の作用に適応した結果、物質が体内からなくなっていくと退薬症候(いわゆる禁断症状)が出る状態。身体依存
たばこ(ニコチン)の身体依存性は極めて弱く、ヘロインやアルコールのように激しい身体的苦痛を伴う症状はみられません。
ギリギリだ。
ギリギリ、バレちゃってる。
「なんとかレトリックを駆使して、ニコチンの依存性の危険度を低く見せたいんです」という努力のあとが、バレちゃってる。
これはもう書き手の技術の問題じゃない。
どれだけ穴掘りがうまい人を雇っても、月を地中に埋め隠すことができないのと同じことだ。それくらい明白な危険は、どんな文章によっても隠せない。
アルコールはこういう場合に例に持ち出しやすいんだろうな。
煙草と同じぐらい、僕らの周囲にあふれてるしね。
でもアルコールは依存症になるのに時間がかかるし、いったん中毒者になった場合のアルコール依存症がどれくらい深刻なのか、一般の日本人には浸透していない。(日本のアルコール依存症患者数は世界的に見ても少ない)だから「アルコールと比べても」と比較されるとずいぶん危険度が穏やかに感じてしまう。
むしろJTの言うように、「コカイン」と「ヘロイン」とならべられるほど、アルコール依存症は深刻なんだと僕らは知った方がいい。
そして、「煙草は、これに比べたら依存性が低いんだ」などと主張する対象に「コカイン」や「ヘロイン」をならべている不自然に、僕らは愕然とするべきだ。
しかも、なんなら依存性はそれ以上なんだ。
依存性
使用人口に対する依存症になった人の割合[要ページ番号][2](1999年)
依存薬物 依存 タバコ 32% ヘロイン 23% コカイン 17% アルコール 15% 抗不安剤(鎮痛剤や睡眠剤を含む) 9% 大麻 9% アメリカ国立薬物乱用研究所(NIDA)の評価[3](1994年) 最大:6 最小:1
依存薬物 依存性 禁断性 耐性 切望感 陶酔性 ニコチン 6 4 5 3 2 ヘロイン 5 5 6 5 5 コカイン 4 3 3 6 4 アルコール 3 6 4 4 6 カフェイン 2 2 2 1 1 大麻 1 1 1 2 3
JTが嘘をついているとは言わない。
「そういう研究結果もある」
と言われれば、まぁそのとおりだしね。
でも、僕が味わっているニコチンの禁断症状はほんものだし、それはJTが主張するところの「弱い依存性」とはまったく違う。
そしてもちろん、僕は嘘をついていない。